「ホームページを直したいが、管理できる人がもう役員にいない。 作ったのは3代前の広報担当で、今は連絡が取れない」 「団体のメールアドレスだと思っていたら、前会長の個人Gmailだった」——
自治会、PTA、NPO、業界団体、協同組合、同窓会。 役員が任期制で入れ替わる組織からの相談には、はっきりした共通パターンがあります。 会社のIT担当の退職と似ていますが、 団体の方が条件は過酷です。全員が数年で入れ替わる前提なのに、 引き継ぎの仕組みだけが「個人の善意任せ」だからです。
なぜ団体では必ずこれが起きるのか
- 任期が短い: 1〜2年で交代。アカウントの棚卸しをする間もなく次の代へ
- 本業ではない: 役員は本業の傍らの無償奉仕。ITの整備に時間を割く動機が乏しい
- 「詳しい人」に集中する: たまたま詳しい役員が個人の判断でツールを導入し、その人の代で終わる
- 個人の資産で立ち上がる: 個人のGmail、個人のスマホ番号、個人のPCで始まり、団体の資産と個人の資産の境目がない
つまり、誰かが悪いのではなく、個人に紐づけた時点で構造的に詰むのです。 だからこそ直し方も明快で、「個人に紐づいているものを、団体に紐づけ直す」に尽きます。
団体でよく事故になる5つの資産
1. メールアドレス
前任者の個人アドレスで対外連絡をしていると、交代のたびに連絡先が変わり、 過去のやり取りは前任者の受信箱に残ったまま。行政や取引先への登録も やり直しです。前任者の受信箱に会員の個人情報が残り続ける問題もあります。
あるべき形: 団体名義のアドレス(後述)を作り、担当が代わっても アドレスは変えない。
2. ホームページとドメイン
「作れる人がいた代」に作られ、その人の個人契約のサーバー・個人名義の ドメインで動いていることが多い。管理画面のパスワードは代替わりで散逸します。 この構図はホームページ業者との「人質」問題と 同型で、名義とログイン情報を団体として握っていないのが根本原因です。
3. SNS・LINE公式アカウント
広報担当の個人スマホでしか投稿できないインスタグラム、 作った人が卒業して誰も管理者になれないLINE公式アカウント。 放置アカウントは乗っ取りの対象にもなります。
4. 会員名簿・会計データ
前任者の個人PCとUSBメモリの中に、名簿の「最新版」が複数ある状態。 どれが正か分からない上、退任した後も歴代役員の私物に会員の個人情報が 残り続けます。名簿は個人情報保護法の対象であり、 団体だから免除ということはありません。
5. 有料サービスの契約と支払い
会計ソフト、Zoom、レンタルサーバー。前任者の個人クレジットカードで 支払われていると、退任後に「勝手に引き落とされ続ける」か 「更新されず突然止まる」のどちらかが起きます。
直し方: 「団体名義」に寄せる3ステップ
ステップ1: 団体の「共通アカウント基盤」を1つ作る
無料で始めるなら、団体名義のGoogleアカウント(例: xxx-jichikai@gmail.com)を
1つ作り、メール・ドライブ(名簿等の保管)・カレンダーをそこに集約するのが
現実的です。NPO法人・非営利団体なら、Google Workspace や Microsoft 365 の
非営利団体向け無償・割引プログラムが使えることがあり、独自ドメインの
アドレス(info@xxx.or.jp)まで整えられます。
注意点がひとつ。共通アカウントを複数人で使う場合、会社向けには 共有アカウントをやめるべきと書きましたが、 毎年全員が入れ替わる小さな団体では、個人アカウントを毎年作り直すより 「団体アカウント+厳格な引き継ぎ」の方が現実的な場合があります。 その場合は最低限、(1) パスワードは交代時に必ず変更する、 (2) 復旧用の電話番号・メールを現役員のものに更新する、 (3) 2要素認証の引き継ぎを交代手順に含める、 の3点を守ってください。特に(2)(3)を忘れると、 前任者のスマホがないとログインできない状態になります。
ステップ2: 名簿と書類の置き場を1ヶ所に決める
「最新版が個人PCに散在」をやめ、団体アカウントのクラウドストレージを 唯一の置き場にします。役員の個人端末には保存しない・退任時に削除する、 を申し合わせに入れます。名簿を会員へ一斉送信する場面があるなら、 BCC誤送信の事故が団体で最も多い漏えいなので、 あわせて配信方法を見直してください。
ステップ3: 「IT引き継ぎ書」を1枚作る
大げさなものは要りません。A4で1枚、次の表を作って、 総会の引き継ぎ資料に加えるだけです。
- 何が: サービス名(メール、HP、SNS、会計ソフト、サーバー、ドメイン…)
- どこで: ログインURL
- 誰の名義・誰の支払いか: 団体名義か個人名義か。個人名義なら要是正マーク
- 入り方: ID(パスワードは別管理。パスワード管理ツールか、封筒で会長保管等、団体の実情に合う方法で)
- 更新期限: ドメイン・サーバー・年間契約の更新月
このリストの「個人名義」欄を毎年1つずつ団体名義に直していけば、 数年で構造問題は解消します。一気にやろうとしないのが続けるコツです。
引き継ぎの当日にやること
役員交代のタイミングでは、次の4つを機械的に実施します。
- 共通アカウントのパスワードを変更する(前任者の善意を疑う話ではなく、退任者のアクセス権を残さないのが原則という話です)
- 復旧用連絡先と2要素認証を新役員のものに更新する
- SNS・HPなどの管理者権限に新役員を追加し、退任者を削除する
- 引き継ぎ書の内容を新旧で読み合わせ、実際にログインできることを確認する
「4. 実際にログインできること」まで確認して、引き継ぎ完了です。 書類上の引き継ぎだけだと、翌月「入れません」が起きます。
まとめ
- 団体のITは「個人に紐づけた時点で詰む」。誰が悪いのでもなく構造の問題
- 直し方は一貫して「団体名義に寄せる」。アカウント・名簿置き場・支払いの3つ
- A4一枚のIT引き継ぎ書を総会資料に加え、交代時はパスワード変更+復旧先更新+ログイン確認
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